そう、禅問答のように映画から人間の「老病生死」とは何か…?という問いを投げかけるような樹木希林の枯れた演技の魔力でした。

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大森立嗣監督樹木希林黒木華多部未華子演じる日日是好日・・・シネマ・コメンテータの流石埜魚水です。この映画をもう見た?まだ見ていないの?

10月の1本目は、母親の勧めで茶道教室へ通うことになった大学生・典子(黒木華)が従姉の美智子(多部未華子)と共に、茶道教室の武田のおばさん(樹木希林)から手ほどきをうけ、茶道を通して成長していく姿を描く映画『日日是好日』 (2018年、大森立嗣 監督&脚本)でした。四畳半の「方丈」の茶室から響く静かな茶釜の音、季節の風景の移り変わりにいる典子の時間がゆつくり静かに流れていきます。典子の心と、日本独特の季節の風情を暗示する「立春」「立夏」「立秋」「大寒」などの二十四節気の言葉。日本の四季折々の情景とそれ全体と共にゆっくりと流れる世界の時間が切り取られた風情のある映像でした。この映画から、そこに人が生きて死ぬことの儚さと諸行無常を感じる人も居るだろうーナ…、映画の題名のように、毎日毎日を茶室の狭い空間で一服の茶を味わい、季節の移ろいを肌で感じながら小さな世界に一瞬の楽しみを覚えることを喜ぶ趣味人も居るかもしれないな…。そう、禅問答のように映画から人間の「老病生死」とは何か…???という問いを投げかけるような作品でした。

人の一生には男も女もいろいろなことに遭遇し、いろいろな男女と交り、万華鏡のような目まぐるしい色と虚しさの感情を味わうものです・・・ネ。典子の場合、結婚相手の男に裏切られ失意のどん底にいる時や、心機一転家族から離れて一人暮らしをする時や、たった一人の娘とお酒を飲むのを喜ぶ父親が亡くなった時・・・など、その時々の典子の人生が茶室とともに流れていく情景が描かれていました。

原作は、森下典子が通った茶道教室での伝統的な日本文化の密室空間をエッセイに綴った「日日是好日」を映像化したものですが、脚本もまた大森立嗣が書いています。私はエッセイを映像するのは難しいと思っています。この映画に関して、監督がテーマに沿って映像にまとめ上げるのに失敗してないではないかな…という感想を持ちました。言葉とセリフがバラバラではないの…。映画のラストシーンで、20歳から45歳までの主人公・典子が、人生の数々の遍歴を越え乍ら茶道を続けた典子のセリフに、「セリーヌの道」も分かるようになった…と、突然のセリフと呟きがありました。私もこの映画はDVDで見ていますが、この典子の呟きの意味が解りませんでした。著者の森下典子に聞かないと分からないよな…。それは何なんだと、私はビックリして、鑑賞後まで気になって仕方なかたです。明らかにエッセイの中の言葉をそのまま監督の中で気に入って咀嚼せずに使った台詞で、そのまま脚本に書いたののかーネ。

大森立嗣監督の映画には、「さよなら渓谷」「まほろ駅前多田便利軒」など話題になった作品もありますが、けれども、私にはいつも焦点とテーマのボンヤリした映画を作る人だな…と先入観がありした。今まで不思議ですが、魅力的で傑作だナーと感じた作品は、これまで何一つありませんでした。でー、今回の『日日是好日』はどんな作品かと、半分は期待して見てました。原作のエッセイをどのように映像化するのか、興味津々でした。今公開されている『食べる女』は原作がエッセイですが、エッセイの映像化に可なり成功している映画でしょうーネ。エッセイの映画化に成功している傑作でした。でも、『日日是好日』は、敢えて言えば出演者の樹木希林の遺作になった映画と言うことが特別、観客を惹きつける魅力ではなかったのかな…!?依然、樹木希林の演技の魔力に魅せられ居るといえようか…ネ。先行上映とは言え、私の入った映画館は満席でした。一年に数回しか映画を見たことのない人たちが、樹木希林を見に来たのかも知れません。

結論から言えば、観る人によって感想は別れる作品ではないでしょうか。中高年には禅問答のような、人生の問いを投げかける作品かもしれません…ネ。エネルギーあふれる若者には、物足りない薄ぼんやりしたテーマのはっきりしない作品と映るかも知れませんーネ。ただ、樹木希林の演技は最後の印象的な遺作でした。

あの抑揚のない彼女の台詞を耳にし、枯れた演技を見るだけで価値があるかも知れません。ご冥福をお祈りいたします。